はじめに
PCパーツの中でも特に注目度が高く、ゲーミング体験を大きく左右するのがグラフィックボード(GPU)です。現在、アッパーミドルレンジ市場は非常に競争が激しく、特に1440p高リフレッシュレートゲーミングや、一部の4Kゲーミングをターゲットにした製品が人気を集めています。
この激戦区において、AMDのRadeon RX 7800 XTとNVIDIAのGeForce RTX 4070 Superは、多くのPCゲーマーやクリエイターにとって魅力的な選択肢となっています。RX 7800 XTは、優れた1440pゲーミング性能と16GBの大容量VRAMを比較的手頃な価格で提供し、市場での地位を確立しています。
一方、RTX 4070 Superは、NVIDIAがRTX 40シリーズの中間リフレッシュとして投入したモデルであり、従来のRTX 4070と同じ価格帯($599)でコア数を増やし性能を向上させ、RX 7800 XTへの対抗姿勢を鮮明にしています。
この記事では、これら2つのGPU、RX 7800 XTとRTX 4070 Superについて、最新の公式スペック、各種ベンチマーク(ゲーム、クリエイティブ)、独自機能、日本国内での実売価格、消費電力、冷却性能などを徹底的に比較・分析します。
本稿執筆時点での最新データに基づき、日本基準の数値を採用し、専門用語は適宜解説を加えながら、技術に関心のある読者にも分かりやすく解説を進めます。1440pゲーミングに最適なGPUはどちらか、レイトレーシングやクリエイティブ作業、コストパフォーマンスを重視する場合、どちらがより適しているのか、データに基づいた明確な結論を導き出すことを目的としています。
スペック徹底比較

GPUの性能を理解する上で、基礎となるのがスペックです。RX 7800 XTとRTX 4070 Superの主な仕様を比較してみましょう。
- コアアーキテクチャ: RX 7800 XTはAMDのRDNA 3アーキテクチャを採用し、GPUコア(GCD)とメモリキャッシュ(MCD)を分離したチップレットデザインが特徴です。Navi 32 XTというGPUがベースとなっています。一方、RTX 4070 SuperはNVIDIAのAda Lovelaceアーキテクチャを採用し、こちらは従来のモノリシックダイ(単一チップ)設計です。AD104というGPUがベースになっています。製造プロセスは、RX 7800 XTがTSMCの5nm(GCD)および6nm(MCD)、RTX 4070 SuperがTSMC 4N(5nm改良)です。
- 演算ユニット: RX 7800 XTは60基のコンピュートユニット(CU)と3840基のストリームプロセッサ(SP)を搭載しています。対するRTX 4070 Superは56基のストリーミングマルチプロセッサ(SM)と7168基のCUDAコアを搭載しています。CUDAコア数だけ見るとRTX 4070 Superが圧倒的に多いですが、アーキテクチャが異なるため、コア数だけで単純な性能比較はできません。これは後述するゲーム性能の比較で明らかになります。レイトレーシング用のコアは、RX 7800 XTが60基のRay Accelerator、RTX 4070 Superが56基のRTコアです。AI処理用のコアは、RX 7800 XTが120基のAI Accelerator、RTX 4070 Superが224基のTensorコアとなっています。
- クロック速度: RX 7800 XTのゲームクロック(典型的なゲーム負荷時のクロック)は約2124 MHz、ブーストクロック(最大)は最大2430 MHzです。RTX 4070 Superのベースクロックは1980 MHz、ブーストクロックは2475 MHzです。これらはリファレンスモデルの数値であり、各メーカーから販売されているオリジナルファンモデル(カスタムモデル)では、より高いクロックに設定されている場合があります。
- メモリ: ここが両者の大きな違いの一つです。RX 7800 XTは16GBのGDDR6メモリを搭載し、メモリインターフェースは256ビット、メモリ速度は19.5 Gbpsです。一方、RTX 4070 Superは12GBのGDDR6Xメモリを搭載し、メモリインターフェースは192ビット、メモリ速度は21 Gbpsです。
- メモリ帯域幅: 計算上のメモリ帯域幅はRX 7800 XTが624 GB/s、RTX 4070 Superが504 GB/sとなります。RX 7800 XTはこれに加えて64MBのInfinity Cache(L3キャッシュ)、RTX 4070 Superは48MBのL2キャッシュを搭載しており、これらが実効メモリ帯域幅を高める役割を果たします。AMDが公表する「実効メモリ帯域幅」の数値は、NVIDIAの計算方法とは異なる可能性があり、鵜呑みにせず実際の性能で評価することが重要です。
- VRAM容量の重要性: RX 7800 XTの16GBという容量は、RTX 4070 Superの12GBに対して大きなアドバンテージです。特に高解像度テクスチャを使用する最新ゲームや、将来のゲームタイトルにおいて、VRAM容量不足による性能低下のリスクを低減できます。1440pゲーミングでは現状12GBでも十分な場面が多いですが、4K解像度や、より重いレイトレーシング設定、MODを多用するようなケースでは16GBの恩恵が大きくなる可能性があります。
- 消費電力と接続:
- TDP/TBP: RX 7800 XTのTBP(Total Board Power)は263W、RTX 4070 SuperのTGP(Total Graphics Power)は220Wです。RTX 4070 Superの方が約40W低く、電力効率に優れています。
- 補助電源コネクタ: RX 7800 XTは標準的な8ピン×2を使用します。一方、RTX 4070 Superは新しい16ピン(12VHPWRまたは12V-2×6)×1を必須とします。これはRTX 4070(無印)の一部モデルが8ピンを採用していたのとは異なり、Superモデルの高い消費電力(220W)に対応するためと考えられます。ATX 3.0規格に対応していない電源を使用する場合、付属の変換アダプタ(通常は8ピン×2を16ピンに変換)が必要となり、ケーブルの取り回しやケース内のスペースに影響を与える可能性があります。
- 推奨電源容量: RX 7800 XTは700W以上、RTX 4070 Superは650W以上が推奨されています。
- 映像出力端子: 両モデルともHDMI 2.1とDisplayPortをサポートします。RX 7800 XTはDisplayPort 2.1に対応しており、将来的に登場する超高リフレッシュレートモニターへの対応に優位性があります。RTX 4070 SuperはDisplayPort 1.4aです。現状の多くのモニターではDP 1.4aでも十分ですが、将来性ではDP 2.1が有利です。
- サイズ: リファレンスモデルやFounders Editionの寸法は、RX 7800 XTが長さ約267mm、2.5スロット厚、RTX 4070 Super FEが長さ約267mm、2スロット厚です。ただし、市場に出回る大半は各社オリジナルデザインのカスタムモデルであり、3連ファン搭載などで300mmを超える大型のカードも多いため、購入時にはケースの対応サイズを必ず確認する必要があります。
仕様比較表
仕様項目 | AMD Radeon RX 7800 XT | NVIDIA GeForce RTX 4070 Super |
アーキテクチャ | RDNA 3 (Navi 32 XT) | Ada Lovelace (AD104-350) |
製造プロセス | TSMC 5nm (GCD) + 6nm (MCD) | TSMC 4N |
コンピュートユニット (CU) / SM | 60 CU | 56 SM |
ストリームプロセッサ / CUDAコア | 3840 SP | 7168 CUDAコア |
Ray Accelerator / RTコア | 60 RA (第2世代) | 56 RTコア (第3世代) |
AI Accelerator / Tensorコア | 120 AIコア | 224 Tensorコア (第4世代) |
ゲームクロック (MHz) | 2124 | – (ベースクロック: 1980) |
ブーストクロック (MHz) | 最大 2430 | 2475 |
VRAM容量 | 16 GB | 12 GB |
VRAMタイプ | GDDR6 | GDDR6X |
メモリ速度 (実効) | 19.5 Gbps | 21 Gbps |
メモリインターフェース | 256-bit | 192-bit |
メモリ帯域幅 | 624 GB/s | 504 GB/s |
キャッシュ | 64 MB (Infinity Cache – L3) | 48 MB (L2 Cache) |
TBP / TGP | 263 W | 220 W |
補助電源コネクタ | 8ピン x 2 | 16ピン x 1 (12VHPWR / 12V-2×6) |
推奨電源容量 | 700 W | 650 W |
映像出力 | DP 2.1 x3, HDMI 2.1 x1 (モデルによる) | DP 1.4a x3, HDMI 2.1 x1 |
参考価格 (MSRP) | $499 | $599 |
このスペック表から、RX 7800 XTはVRAM容量とメモリバス幅で、RTX 4070 SuperはCUDAコア数、メモリ速度、電力効率で優位性があることが分かります。しかし、これらの違いが実際の性能にどう影響するかは、次のベンチマークセクションで詳しく見ていく必要があります。
ゲーム性能:ラスタライゼーション

ラスタライゼーションは、レイトレーシングを使用しない従来の描画方法であり、現在でも多くのゲームで主流となっています。ここでは、RX 7800 XTとRTX 4070 Superのラスタライゼーション性能を、主要なゲームタイトルにおける平均フレームレート(FPS)で比較します。
テスト環境について: ベンチマーク結果はテスト環境(CPU、メモリ、マザーボードなど)によって変動します。本稿では、複数のレビュー結果を総合的に評価し、一般的な傾向を示します。
1440p (WQHD) での性能:
1440pは、RX 7800 XTとRTX 4070 Superが主戦場とする解像度です。最高画質設定での比較では、両者の性能は非常に拮抗しています。多くのレビューサイトの平均を見ると、RTX 4070 SuperがRX 7800 XTに対して平均で約5%〜10%程度高いフレームレートを示す傾向にありますが、その差は比較的小さいです。
タイトルによってはRX 7800 XTがRTX 4070 Superを上回ることもあります。特にAMDに最適化されたタイトル(例:Starfield, Forza Horizon 5)や、特定のゲームエンジン(例:Call of Duty)では、RX 7800 XTが同等以上の性能を発揮する場面が見られます。
4Kでの性能:
4K解像度ではGPUへの負荷がさらに高まります。両カードとも4K/60fpsでのプレイは可能ですが、最新のAAAタイトルでは画質設定の調整やアップスケーリング技術(後述)の利用が必要になる場面が増えます。
性能差の傾向は1440pと似ていますが、タイトルによってはRX 7800 XTの16GB VRAMが有利に働く可能性も指摘されています。しかし、現状の多くのテストでは、RTX 4070 Superが僅かにリードするか、RX 7800 XTが同等または僅かに上回る結果が見られ、決定的な差はつきにくい状況です。4Kにおいても、両者のラスタライゼーション性能は非常に近いレベルにあると言えます。
1080p (フルHD) での性能:
1080p解像度では、ハイエンドCPUを使用していてもCPUがボトルネックとなり、GPUの性能差が完全には現れない場合があります。しかし、高リフレッシュレートモニター(240Hz以上など)でのプレイを目指す場合には依然として重要な解像度です。
1080pでは、1440pや4KよりもRX 7800 XTがRTX 4070 Superに対して健闘する、あるいは逆転するタイトルが増える傾向が見られます。これは、解像度が下がることでメモリ帯域幅への負荷が相対的に減り、RX 7800 XTの持つ演算能力がより活かされるためと考えられます。
ラスタライゼーション性能 まとめ:
ラスタライゼーション性能においては、RX 7800 XTとRTX 4070 Superは非常に良い勝負をしています。平均するとRTX 4070 Superがわずかに優位ですが、その差は小さく、タイトルや解像度によってはRX 7800 XTが同等以上の性能を発揮します。
ラスタライゼーション ゲーミングベンチマーク概要 (平均FPS)
ゲームタイトル | 1080p Ultra (RX 7800 XT / RTX 4070 Super) | 1440p Ultra (RX 7800 XT / RTX 4070 Super) | 4K Ultra (RX 7800 XT / RTX 4070 Super) | 備考 |
Cyberpunk 2077 | (データソースにより変動) | ~75 / ~80 | ~40 / ~42 | (7800XTが4070Sを上回る例も) |
Starfield | (CPU律速傾向) | ~85 / ~86 | ~53 / ~53 | (AMD優位傾向) |
Shadow of the Tomb Raider | (CPU律速傾向) | ~170 / ~191 | ~95 / ~107 | (4070S優位) |
Resident Evil 4 Remake | ~200 / ~216 | ~138 / ~140 | ~71 / ~71 | (ほぼ同等) |
Forza Horizon 5 | (データソースにより変動) | ~115 / ~120 | ~85 / ~90 | (7800XTが4070(無印)を上回る傾向) |
Dying Light 2 | ~150 / ~165 | ~103 / ~111 | ~50 / ~53 | (4070S優位) |
平均的な傾向 | RX 7800 XT ≧ RTX 4070 Super | RX 7800 XT ≦ RTX 4070 Super (~5-10%差) | RX 7800 XT ≈ RTX 4070 Super | (あくまで全体的な傾向。タイトル依存性大) |
注: 上記の数値は複数のレビューからのおおよその傾向を示すものであり、テスト環境やドライババージョンによって変動します。
この拮抗したラスタライゼーション性能は、価格設定を考慮すると重要な意味を持ちます。RX 7800 XTの希望小売価格(MSRP)は$499、RTX 4070 Superは$599であり、約100(日本では後述の通り¥15,000〜¥20,000程度)の価格差があります。性能差が比較的小さいことを考えると、純粋なラスタライゼーション性能における∗∗コストパフォーマンス(FPS/)では、RX 7800 XTがRTX 4070 Superを上回る場面が多い**と言えます。RTX 4070 Superの価格上昇分に見合うだけのラスタライゼーション性能向上が常にあるわけではない、という点は考慮すべきでしょう。
また、GPUの性能はドライバの更新によって変化することがあります。特にAMD製GPUは、発売後のドライバ更新によって性能が向上する傾向が指摘されることもあります。したがって、現時点でのベンチマーク結果が将来もそのまま維持されるとは限らず、RX 7800 XTの相対的な性能が時間とともに向上する可能性も念頭に置くべきです。
ゲーム性能:レイ トレーシング

レイ トレーシング(RT)は、光の挙動をより現実に近くシミュレートすることで、リアルな影、反射、照明表現を可能にする技術です。しかし、計算負荷が非常に高いため、GPU性能が大きく問われます。
性能差:
レイ トレーシング性能においては、NVIDIAのGeForce RTXシリーズが伝統的にAMD Radeonシリーズに対して大きなアドバンテージを持っています。これは、より成熟した専用RTコアと、最適化されたアーキテクチャによるところが大きいです。RTX 4070 SuperとRX 7800 XTの比較においても、この傾向は明確です。
多くのレビューで、RTX 4070 SuperはRX 7800 XTに対して、レイ トレーシングを有効にした場合に平均して15%から50%以上高いフレームレートを達成しています。この差は、ゲームタイトルやレイトレーシング設定の重さによって大きく変動します。例えば、比較的軽いRT実装のゲームでは差が縮まりますが、Cyberpunk 2077のオーバードライブモード(パストレーシング)のような極めて重い負荷では、RTX 4070 Superの優位性が際立ちます。
ベンチマーク分析:
代表的なレイトレーシング対応タイトルでの性能を見てみましょう。
- Cyberpunk 2077 (RT Ultra / RT Overdrive): このタイトルはRT負荷が非常に高く、特にオーバードライブモードは現行GPUでも最高レベルの負荷となります。1440pのRT Ultra設定などでも、RTX 4070 SuperはRX 7800 XTよりも大幅に高いFPSを維持し、より快適なプレイ体験を提供します。オーバードライブモードでは、DLSSなどのアップスケーリング技術を併用しても、RX 7800 XTでは実用的なフレームレートを維持するのが困難な一方、RTX 4070 Superは**DLSS 3(フレーム生成含む)**を活用することで、ある程度のプレイアビリティを確保できる可能性があります。
- Dying Light 2 (RT High): このタイトルでもRTX 4070 Superの優位性は明らかです。
- Metro Exodus Enhanced Edition: このゲームはフルレイトレース(またはそれに近い)レンダリングを採用しており、RT性能差が顕著に現れます。1440p Ultra品質+Ultra RT設定で、RTX 4070 Superが82 FPSを記録したのに対し、RX 7800 XTは61 FPSにとどまりました。
プレイアビリティ:
RX 7800 XTもレイトレーシングを実行する能力は持っていますが、特に1440p以上の解像度や高設定のRTを有効にした場合、フレームレートが大幅に低下し、快適なプレイが難しくなることがあります。多くの場合、画質を大きく犠牲にするアップスケーリング(FSR Performanceなど)を使用するか、RT設定を下げる必要が出てきます。
一方、RTX 4070 Superは、より高いRT性能を持つため、同じ条件下でも高いフレームレートを維持できます。さらに、後述するDLSSアップスケーリング技術と組み合わせることで、画質を維持しつつ、RTを有効にした状態でのプレイアビリティを確保しやすいのが大きな利点です。RTX 4070 Superは、RX 7800 XTと比較して、「レイトレーシングを実用的に楽しむ」ためのハードルが低いと言えるでしょう。
レイ トレーシング性能 まとめ:
レイトレーシング性能に関しては、RTX 4070 SuperがRX 7800 XTに対して明確なアドバンテージを持っています。リアルなグラフィック表現を重視し、レイトレーシングを積極的に活用したいユーザーにとっては、RTX 4070 Superがより適した選択肢となります。
レイ トレーシング ゲーミングベンチマーク概要 (平均FPS)
ゲームタイトル | 1080p RT (RX 7800 XT / RTX 4070 Super) | 1440p RT (RX 7800 XT / RTX 4070 Super) | 備考 |
Cyberpunk 2077 (RT Ultra) | ~40 / ~55 | ~25 / ~35 | (DLSS/FSR併用推奨) |
Dying Light 2 (RT High) | ~70 / ~117 | ~45 / ~79 | |
Metro Exodus Enhanced (Ultra RT) | (データソースにより変動) | ~61 / ~82 | |
Resident Evil 4 Remake (RT High) | ~140 / ~178 | ~100 / ~127 | (RT負荷軽め、差は比較的小) |
F1 23 (Ultra High + RT) | (データソースにより変動) | ~70 / ~90 | (4070優位) |
平均的な傾向 | RX 7800 XT << RTX 4070 Super | RX 7800 XT << RTX 4070 Super | (RTX 4070 Superが15%〜50%以上高速。タイトル・設定依存性大) |
注: 上記の数値は複数のレビューからのおおよその傾向を示すものであり、テスト環境やドライババージョンによって変動します。高負荷RTではDLSS/FSRの使用が前提となる場合があります。
この顕著なレイトレーシング性能差は、RTX 4070 Superの価格設定($599)を正当化する大きな要因の一つです。純粋なラスタライゼーション性能のコストパフォーマンスではRX 7800 XTが優位に立つことが多いですが、レイトレーシングを重視するユーザーにとっては、追加コストを支払う価値のある性能向上が得られます。
また、実用的なレイトレーシング体験は、GPUの演算能力だけでなく、アップスケーリング技術の品質と性能にも大きく依存します。特に1440pや4KでRTを有効にする場合、DLSSやFSRの使用がほぼ必須となるため、次のセクションで解説するこれらの技術の比較が、RT体験の質を左右する重要な要素となります。NVIDIAのDLSSが一般的にFSRよりも高品質と評価されている点は、RTX 4070 SuperのRTアドバンテージをさらに補強する形になります。
VRAM容量(7800 XT: 16GB vs 4070 Super: 12GB)とレイトレーシングの関係も考慮が必要です。高解像度・高設定のRTはVRAMを大量に消費する可能性がありますが、RX 7800 XTの場合、十分なVRAMがあってもRT演算能力自体がボトルネックとなり、RTX 4070 Superがより低いVRAM容量でも達成できるような滑らかなフレームレートを出せない可能性があります。つまり、最高レベルのRT設定においては、VRAM容量よりもRT演算能力の差が、実用的なパフォーマンスを決定づける要因となる場合があるということです。
アップスケーリングとフレーム生成:FSR/AFMF vs DLSS/Frame Generation

高解像度ゲーミングやレイトレーシングの負荷を軽減し、フレームレートを向上させる技術として、アップスケーリングとフレーム生成が重要になっています。AMDはFidelityFX Super Resolution (FSR) とAMD Fluid Motion Frames (AFMF)、NVIDIAはDeep Learning Super Sampling (DLSS) とFrame Generation (FG) を提供しています。
技術概要:
- アップスケーリング: 低い解像度でレンダリングした映像を、AIや高度なアルゴリズムを用いて目標解像度に引き伸ばし、画質を補完する技術です。
- FSR (1, 2, 3, 4): AMDの空間的/時間的/AIアップスケーリング技術。FSR 1は空間的、FSR 2以降は時間的情報を活用し画質を向上。FSR 3ではフレーム生成が統合。FSR 4ではAIを活用し、画質が大幅に向上したとされています。FSRはオープンソースであり、多くのGPU(NVIDIA製含む)で利用可能です。
- DLSS (2, 3, 3.5): NVIDIAのAIベースのアップスケーリング技術。Tensorコアを活用し、高品質なアップスケーリングを実現します。DLSS 3ではフレーム生成が、DLSS 3.5ではRay Reconstruction(レイトレーシング画質向上)が追加されました。DLSSはNVIDIA RTX GPU専用です。
- フレーム生成 (FG / AFMF): 描画されたフレームの間に、AIや動きベクトル解析によって中間フレームを生成・挿入し、見かけ上のフレームレート(滑らかさ)を向上させる技術です。
- FSR 3 Frame Generation: FSR 3に統合されたフレーム生成技術。ゲームへの実装が必要です。
- AFMF (AMD Fluid Motion Frames): AMD Adrenalinドライバレベルで動作するフレーム生成技術。ゲーム側の対応が不要で、多くのDirectX 11/12/Vulkanゲームで利用可能ですが、UIの歪みなどの副作用が発生する可能性があります。RX 6000シリーズ以降で利用可能です。
- DLSS 3 Frame Generation: DLSS 3の一部として提供されるフレーム生成技術。NVIDIA RTX 40シリーズ以降専用で、ゲームへの実装が必要です。
性能向上:
アップスケーリングは、選択する品質モード(Quality, Balanced, Performanceなど)によってFPS向上率が変わります。一般的にPerformanceモードが最もFPSが向上しますが、画質への影響も大きくなります。
フレーム生成は、ベースとなるフレームレートを大幅に向上させることが可能です。FSR 3 FGはDLSS 3 FGよりもFPS向上率が大きい場合があるとの報告もありますが、これはFSR 3 FGの処理負荷がDLSS 3 FGよりも軽いことに起因する可能性があります。ただし、フレーム生成は遅延を増加させるため、単純なFPS向上率だけでなく、体感的な滑らかさや応答性も重要です。AFMFはドライバレベルで動作するため、ゲーム内実装のFGとは異なる性能特性を示すことがあります。
画質:
アップスケーリングの画質については、一般的にDLSS 2以降がFSR 2/3よりも優れていると評価されています。DLSSはAIを活用することで、よりシャープで安定したディテール、少ないアーティファクト(ゴースト、シマリング)を実現する傾向があります。
ただし、FSR 4は画質面で大幅な改善が見られ、特定のシーンではネイティブ+TAAよりも良好に見える場合もあると報告されており、DLSSとの差を縮めています。
フレーム生成の画質については、どちらの技術も動きの速いシーンやUI周りでアーティファクト(歪み、ゴースト)が発生する可能性があります。FSR 3 FGとDLSS 3 FGの画質は同等レベルとの評価もありますが、アップスケーリング部分の品質差が影響する可能性はあります。AFMFはドライバレベル故のUI歪みが欠点とされています。
遅延:
フレーム生成は原理的に入力遅延を増加させます。この遅延を軽減するために、NVIDIAはReflexを、AMDはAnti-Lag(またはAnti-Lag+、Anti-Lag 2)を組み合わせています。ReflexはDLSS 3 FGと緊密に連携し、効果的に遅延を抑制します。FSR 3 FGもAnti-Lagと連携しますが、その効果や実装はタイトルによって異なります。
一般的に、フレーム生成を快適に使用するには、ベースとなるフレームレートが60 FPS以上であることが推奨されます。ベースFPSが低い状態でFGを使用すると、見かけ上のFPSは高くても、入力遅延が大きくなりすぎて操作感が悪化する可能性があります。FSR 3 FGはDLSS 3 FGよりも遅延ペナルティが少ない場合があるという報告もあります。AFMFは特に遅延が大きくなる傾向が指摘されています。
ゲームサポートと実装:
DLSS 3 (FG含む) の対応タイトル数はFSR 3よりも多い状況ですが、FSR 3も対応タイトルを増やしています。FSRはオープンソースであるため、将来的により多くのゲームで採用される可能性があります。FSR 3.1以降はモジュール化(DLLファイル化)されており、開発者がより容易に最新版を導入したり、ユーザーがDLLを置き換えて利用したりできる可能性が示唆されています。
AFMFはゲーム側の対応が不要な点が大きなメリットですが、ドライバレベルでの実装故の制限(UI歪み、急な視点移動で無効化されるなど)もあります。
アップスケーリング & フレーム生成 機能比較
機能 | AMD (RX 7800 XT) | NVIDIA (RTX 4070 Super) |
アップスケーリング技術 | FSR 1/2/3/4 (空間的/時間的/AI) | DLSS 2/3/3.5 (AIベース) |
アップスケーリング画質 | FSR 2/3: 良好~良い / FSR 4: 非常に良い | DLSS 2+: 非常に良い~優れている |
フレーム生成技術 | FSR 3 FG (ゲーム内実装), AFMF (ドライバレベル) | DLSS 3 FG (ゲーム内実装) |
フレーム生成画質 | 良好 (FSR FG) / 可変 (AFMF, UI歪み可能性あり) | 良好~非常に良い (DLSS FG) |
遅延低減技術 | Anti-Lag / Anti-Lag+ / Anti-Lag 2 | Reflex |
対応ゲーム数 (FG) | FSR 3: 増加中 / AFMF: 多数 (DX11/12/Vulkan) | DLSS 3: 多い |
GPU互換性 (FSR/DLSS) | FSR: オープン (他社GPUも可) | DLSS: RTX GPU専用 |
GPU互換性 (FG/AFMF) | FSR 3 FG: RX 5700以降 / AFMF: RX 6000以降 | DLSS 3 FG: RTX 40シリーズ以降 |
この比較から、NVIDIAはDLSSによる高品質なアップスケーリングと成熟したフレーム生成、Reflexによる効果的な遅延低減という、緊密に統合されたエコシステムを提供していることがわかります。これはRTX GPUへのロックインを伴いますが、一貫した高品質な体験を提供しやすいと言えます。
一方、AMDはFSRのオープン性とAFMFによる広範な互換性という利点を持っています。特にAFMFは、対応を待たずに多くのゲームでフレームレート向上を試せる点でユニークです。FSR 4の登場により画質面でのキャッチアップも進んでおり、今後の進化と普及が期待されます。ただし、フレーム生成の快適な利用には、どちらの技術も十分なベースフレームレートが必要であり、単に低FPSを補う魔法の杖ではない点は共通しています。
クリエイティブ・生産性タスク性能

ゲーミングGPUは、動画編集、3Dレンダリング、AI開発といったクリエイティブ・生産性タスクにも活用されます。この分野では、伝統的にNVIDIAが優位とされてきました。
概要:
NVIDIA GPUは、CUDAという独自の並列コンピューティングプラットフォームとAPIを持っており、多くのプロフェッショナル向けソフトウェア(Adobe製品、Blender、その他多数)がCUDAに最適化されています。これがNVIDIAの大きなアドバンテージとなっています。AMDもROCm/HIPといった対抗プラットフォームを持っていますが、ソフトウェア側の対応状況では依然としてCUDAに及びません。
動画編集 (Adobe Premiere Pro, DaVinci Resolve):
動画編集ソフトにおける性能は、使用するソフトウェアや処理内容によって結果が分かれます。
- Premiere Pro: 一部のテストでは、NVENCエンコーダーやCUDAを利用したエフェクト処理により、RTX 4070 SuperがRX 7800 XTよりも高速なレンダリング時間を示す傾向があります。しかし、別のテストでは、特定の書き出し処理においてRX 7800 XTがRTX 4070(無印)と同等か、わずかに高速であるという結果も報告されています。
- DaVinci Resolve: DaVinci ResolveはGPU負荷が高いことで知られています。AMDのRDNA 3アーキテクチャに搭載されたAI Acceleratorが特定の処理(AI機能など)で効果を発揮する可能性があり、RX 7800 XTがRTX 4070 Superに匹敵するか、わずかに劣る程度の競争力のある性能を示すことがあります。しかし、全体的にはNVIDIA GPUの方が安定して高い性能を発揮する傾向が見られます。
- エンコーダー: 両カードとも最新のAV1エンコード/デコードに対応しており、高品質な動画圧縮が可能です。ただし、ストリーミングで多用されるH.264/HEVCエンコードにおいては、NVENCの方が低ビットレートでの画質や効率で若干優れているという評価が一般的です。
3Dレンダリング (Blender):
BlenderのCyclesレンダラーを使用する場合、RTX 4070 SuperがRX 7800 XTを圧倒します。これは、CyclesがNVIDIAのOptiX API(RTコアとTensorコアを活用)に高度に最適化されているためです。ベンチマークサイトやレビューによると、RTX 4070 SuperはRX 7800 XTの2.5倍以上のレンダリング速度を達成することがあります。AMDのHIP APIもサポートされていますが、現状ではOptiXほどの性能は出ていません。Blenderを主要な用途とする場合、NVIDIA GPUが明確に推奨されます。
AIワークロード:
AI関連のタスク(機械学習モデルのトレーニングや推論など)においては、NVIDIAのTensorコアとCUDAエコシステムの成熟度により、RTX 4070 SuperがRX 7800 XTよりもはるかに高い性能と幅広いソフトウェア互換性を提供します。AMDもAI Acceleratorを搭載していますが、現時点でのソフトウェアサポートは限定的です。
VRAM容量:
クリエイティブタスク、特に高解像度動画編集や複雑な3Dシーンのレンダリングにおいては、VRAM容量が重要になります。RX 7800 XTの16GB VRAMは、RTX 4070 Superの12GBよりも大きなプロジェクトやアセットを扱う上で有利になる可能性があります。しかし、Blenderのように演算能力がボトルネックとなる場合は、VRAM容量が多くてもRTX 4070 Superの方が圧倒的に早く処理を終えられるため、一概にVRAMが多い方が良いとは言えません。ワークフローによって、容量と演算速度のどちらがより重要になるかを見極める必要があります。
クリエイティブ・生産性性能 まとめ:
全体的に見て、特にBlenderレンダリングやAI関連、CUDAに最適化されたワークフローにおいては、RTX 4070 SuperがRX 7800 XTよりも優れた性能を発揮します。動画編集においてはソフトウェアや処理内容によって差が縮まることもありますが、安定性や幅広い互換性を考慮すると、依然としてNVIDIAに分があると言えるでしょう。RX 7800 XTの16GB VRAMは特定の用途でメリットがありますが、多くのクリエイティブタスクではRTX 4070 Superの演算能力とエコシステムがより魅力的に映る可能性が高いです。
独自機能・ソフトウェア・ドライバー比較

GPUの性能だけでなく、それを支える独自機能、ソフトウェア、ドライバーの品質もユーザー体験を左右する重要な要素です。
遅延低減技術:
オンライン対戦ゲームなど、一瞬の反応が勝敗を分ける場面では、入力遅延(マウス操作などが画面に反映されるまでの時間)の低減が重要です。
- NVIDIA Reflex: ゲームエンジンレベルで統合され、CPUとGPUのレンダリングパイプラインを最適化することで遅延を削減します。多くの主要な競技タイトルでサポートされており、特にGPU負荷が高い状況で効果を発揮します。一般的に、AMDのAnti-Lagよりも効果的で完成度の高い技術と評価されています。
- AMD Anti-Lag / Anti-Lag+ / Anti-Lag 2: AMDの遅延低減技術は変遷を重ねています。
- Anti-Lag: ドライバレベルで動作し、CPU処理をGPU処理に同期させることで遅延を抑制しますが、効果は限定的で、Reflexには及びません。
- Anti-Lag+: より高度な遅延低減を目指しましたが、ゲームプロセスに介入する手法がアンチチートシステムに誤検知され、多くのゲームでBAN対象となる問題が発生したため、提供が中止されました。
- Anti-Lag 2: Anti-Lag+の反省を踏まえ、Reflex同様にゲームへの直接統合を必要とする方式で再設計されました。Counter-Strike 2などでサポートが始まっており、Reflexに匹敵する低遅延を実現できる可能性が示されていますが、対応タイトルはまだ非常に少ないのが現状です。 現時点では、対応タイトルの多さと実績から、NVIDIA Reflexの方が実用的な低遅延ソリューションとして優位に立っています。
ビデオエンコーダー:
ゲームプレイの録画やライブストリーミングにおいて、GPUに搭載された専用エンコーダーの性能が重要になります。
- 対応コーデック: RTX 4070 Super (NVENC 第8世代) とRX 7800 XT (VCN 4.0) は、どちらもH.264、HEVC (H.265) に加え、AV1コーデックのハードウェアエンコード・デコードに対応しています。AV1は、H.264やHEVCよりも高い圧縮効率を実現し、同じ画質ならより低いビットレートで、同じビットレートならより高い画質で配信・録画が可能です。
- 品質と性能: 一般的に、NVIDIAのNVENCは、特にストリーミングで多用されるH.264/HEVCにおいて、AMDのVCNよりも低ビットレート時の画質や安定性でわずかに優れていると評価されています。AV1エンコードの品質については、両者とも高品質ですが、ソフトウェア側の対応状況やドライバによって差が出る可能性はあります。Twitchなどの主要プラットフォームでのAV1エンコード対応はまだ限定的ですが(YouTubeは対応済み)、将来性を見据えるとAV1対応は両者にとってメリットとなります。
ソフトウェアスイート:
GPUの各種設定、ドライバ更新、録画・配信機能などを統合したソフトウェアも比較対象です。
- AMD Software: Adrenalin Edition: パフォーマンスチューニング(オーバークロック/アンダーボルト)、モニタリングオーバーレイ、録画・配信機能(ReLive)、Radeon Super Resolution (RSR)、AFMFの有効化など、多くの機能を一つのソフトウェアに統合している点が特徴です。直感的で多機能なインターフェースは多くのユーザーから高く評価されています。
- NVIDIA App / GeForce Experience / Control Panel: NVIDIAのソフトウェアはこれまで機能ごとに分散していました(GeForce Experience: ShadowPlay録画/配信、ゲーム最適化、ドライバ更新。NVIDIA Control Panel: コア設定、DSR、色調整など)。現在はこれらを統合するNVIDIA App(ベータ版)への移行が進められています。NVIDIA Appは、従来の機能に加え、RTX HDRやDLSS設定の上書きなどの新機能も提供します。また、AIを活用したノイズ除去やバーチャル背景機能を提供するNVIDIA Broadcastも別途提供されています。
- 比較: AMD Adrenalinはオールインワンの利便性で優れています。特に、GPUのチューニング機能が統合されている点は、NVIDIAでMSI Afterburnerなどのサードパーティ製ツールを別途必要とすることと比較してメリットです。一方、NVIDIAは、ワンクリックでのゲーム設定最適化や、NVIDIA Broadcastによる高度なAI機能など、独自の付加価値を提供しています。どちらのソフトウェアが優れているかは、ユーザーの好みや求める機能によって意見が分かれるところです。
ドライバーの安定性:
かつてAMD Radeonドライバーは不安定という評価がありましたが、近年、特にRDNA 2およびRDNA 3世代において安定性は大幅に向上しています。
- 現状: 最新のユーザーフィードバックやレビューを見ると、AMDとNVIDIAのどちらのドライバーにもバグは存在します。AMDドライバーで「タイムアウト」やブラックスクリーンなどの問題に遭遇する報告もありますが、これらは特定のハードウェア構成(不安定なメモリやオーバークロック、古いOSなど)やソフトウェアとの競合が原因であることも少なくありません。一方で、最近のNVIDIAドライバーにも問題(ブラックスクリーン、マルチモニターでの不具合など)が報告されており、一概にどちらが絶対的に安定しているとは言えなくなっています。
- 評価: 歴史的な評価の影響もあり、依然としてNVIDIAドライバーの方が安定しているという認識を持つユーザーは多いかもしれません。特にクリエイター向けの「Studio Driver」は安定性を重視してテストされており、安心感があります。しかし、実際の安定性は両者間でかなり接近しており、「AMDドライバーは不安定」という過去のイメージだけで判断するのは適切ではないでしょう。むしろ、Adrenalinソフトウェアの使いやすさを評価する声も多く聞かれます。
総じて、機能面では低遅延技術やAI関連機能でNVIDIAがリードしていますが、ソフトウェアの統合性やチューニング機能ではAMDが優位な面もあります。ドライバーの安定性に関しては、両者ともに改善と課題があり、大きな差はないと考えられます。
消費電力と冷却性能

GPUの消費電力は、電源ユニット(PSU)選びやシステムの冷却設計、さらには電気代にも影響します。また、冷却性能は動作時の温度やファンノイズに関わり、快適な使用感を左右します。
消費電力:
- 公称値: RX 7800 XTのTBPは263W、RTX 4070 SuperのTGPは220Wであり、RTX 4070 Superの方が約43W低くなっています。
- 実測値: 実際のゲームプレイ中の消費電力を測定したレビューでも、この傾向は裏付けられています。RTX 4070 Superは、RX 7800 XTよりも約40W〜50W低い消費電力で動作することが多いです。この差は、NVIDIA Ada LovelaceアーキテクチャとTSMC 4Nプロセスの優れた電力効率を示しています。
- アイドル時・マルチモニター: アイドル時の消費電力は両者とも低いですが、マルチモニター環境下では、過去にAMD製GPUでアイドル時の消費電力が比較的高くなる問題が指摘されていました。RDNA 3世代では改善されている可能性が高いですが、特定のモニター構成では注意が必要かもしれません。
冷却性能(温度・ファンノイズ):
- 動作温度: GPUの動作温度は、搭載されているクーラーの性能とPCケース内のエアフローに大きく依存します。リファレンスモデルやFounders Editionのレビューを見ると、高負荷時でも両カードとも概ね70℃〜80℃前後の範囲に収まることが多いようです。ただし、これはあくまで一例であり、各社から販売されているカスタムモデルでは、より大型で高性能なクーラーを搭載することで、さらに低い温度で動作するものも多数存在します。
- クーラー設計: AMDのリファレンスカードは比較的シンプルなデュアルファンクーラー、NVIDIAのFounders Editionは特徴的なフローデザイン(片方のファンがケース背面へ排気)のデュアルファンクーラーを採用しています。市場のカスタムモデルでは、2連ファンや3連ファン、2.5スロット厚や3スロット厚を超える大型ヒートシンクなど、多様な冷却ソリューションが見られます。
- ファンノイズ: ファンの騒音レベルもクーラー設計に依存します。RTX 4070 Superの方が消費電力が低いため、一般的には静音化しやすい傾向にあります。しかし、レビューによっては、RX 7800 XTの優れたカスタムクーラー搭載モデルは、RTX 4070 Superのモデルと比較しても同等か、むしろ静かである場合もあると報告されています。これは、メーカーが高TDPに対応するために、より高性能(大型)なクーラーをRX 7800 XTに搭載する傾向があるためと考えられます。リファレンスモデルのRX 7800 XTは、ややノイズが大きいとされることもあります。アイドル時には、最近のほとんどのGPUと同様に、ファンが停止する「ゼロRPM」機能に対応しています。
消費電力と冷却性能 まとめ:
電力効率の点では、RTX 4070 Superが明確に優れています。これにより、発熱量が抑えられ、より小型・静音のクーラー設計が可能になり、PSUへの負荷も軽減されます。しかし、実際の温度や静音性に関しては、GPU自体の効率だけでなく、各メーカーが採用するクーラーの設計と品質が最終的なユーザー体験を大きく左右します。RX 7800 XTでも、優れた冷却機構を持つモデルを選べば、静かで低温な動作は十分に可能です。
消費電力 & 冷却性能 概要
指標 | AMD Radeon RX 7800 XT | NVIDIA GeForce RTX 4070 Super |
公称 TBP/TGP | 263 W | 220 W |
実測 ゲーム負荷時消費電力 (目安) | 約 250-260 W | 約 200-220 W |
負荷時温度 (リファレンス/FE 目安) | 約 75°C | 約 70°C |
負荷時ノイズ (リファレンス/FE 目安) | 約 36 dBA | 約 33-35 dBA |
注: 温度・ノイズはレビュー環境やモデルにより大きく変動します。上記はTechPowerUpなどのレビューに基づく参考値です。
電源容量の推奨値はRX 7800 XTが700W、RTX 4070 Superが650Wですが、実際の負荷時消費電力の差は約40-50Wです。高品質な650W電源であれば、どちらのカードでも多くのシステムで動作可能と考えられますが、CPUの消費電力や将来的なアップグレード、瞬間的な電力スパイクへの対応を考慮すると、推奨容量以上の余裕を持たせることが望ましいです。RTX 4070 Superの16ピンコネクタは、ATX 3.0対応電源でない場合にアダプタが必要となる点も、電源選びの際の考慮事項となります。
日本市場での実売価格とコストパフォーマンス

GPUの性能や機能も重要ですが、最終的な購入決定には価格が大きく影響します。ここでは、日本国内の市場におけるRX 7800 XTとRTX 4070 Superの実売価格と、それに基づいたコストパフォーマンスを分析します。価格情報は、価格.com、パソコン工房、TSUKUMO、アークなどのオンラインストアや価格比較サイトの2024年5月時点のデータを参考にしています。
現在の実売価格 (日本円):
- Radeon RX 7800 XT: 最安値クラスのモデルは約75,000円から見られます。人気のあるカスタムモデル(例: Sapphire PULSE, ASRock Steel Legend/Challenger)は約80,000円〜85,000円程度、高性能なOCモデルやデザイン性の高いモデル(例: Sapphire NITRO+, PowerColor Red Devil/Hellhound)は約90,000円〜100,000円を超える場合もあります。
- GeForce RTX 4070 Super: 最安値クラスのモデルでも約95,000円〜100,000円程度からのスタートとなることが多いようです。主要メーカーのカスタムモデルは約100,000円〜120,000円以上となり、ハイエンドモデルではさらに高価になります。
価格差:
現時点での日本市場では、最も安価なモデル同士を比較した場合でも、RX 7800 XTはRTX 4070 Superよりも約15,000円〜20,000円以上安価に入手できる状況です。この価格差は、両者のMSRP($499 vs $599)の差($100)を反映したものと言えます。
コストパフォーマンス分析:
- ラスタライゼーション性能: 前述の通り、1440pラスタライゼーション性能ではRTX 4070 Superが平均して5-10%程度優位ですが、価格差は約20-25%以上あります(最安値比較)。この点を考慮すると、ラスタライゼーション性能におけるコストパフォーマンス(1万円あたりの平均FPSなど)では、RX 7800 XTが明確に優位です。純粋なゲーム性能(RT除く)を価格比で評価するなら、RX 7800 XTは非常にお買い得と言えます。
- レイトレーシング性能: レイトレーシング性能ではRTX 4070 Superが大幅に優れています(15-50%+)。RT性能を重視する場合、約15,000円〜20,000円以上の価格差を支払ってRTX 4070 Superを選ぶ価値は十分にあります。この場合、コストパフォーマンスの評価軸が変わってきます。
- 総合的な価値: VRAM容量(16GB vs 12GB)、電力効率、DLSS/FSRの品質や対応状況、クリエイティブ性能なども含めて総合的に判断する必要があります。価格差を考慮しつつ、どの要素を最も重視するかによって、どちらのカードが「コストパフォーマンスが高い」と感じるかはユーザー次第です。
価格に関する留意点:
- モデル間の価格差: 同じGPUでも、メーカーやモデル(冷却性能、OC耐性、デザイン、保証期間など)によって価格は大きく異なります。高性能なRX 7800 XTモデルが、エントリークラスのRTX 4070 Superモデルと同等かそれ以上の価格になることもあります。単純な最安値比較だけでなく、同程度のグレードのモデル同士で比較検討することも重要です。
- 価格変動: GPUの価格は市場の需給バランスや為替レート、セールなどによって常に変動します。購入を検討する際は、最新の価格情報を複数の店舗で確認することが推奨されます。
長所と短所

これまでの比較を踏まえ、RX 7800 XTとRTX 4070 Superの長所と短所をまとめます。
長所・短所 まとめ
特徴 | AMD Radeon RX 7800 XT | NVIDIA GeForce RTX 4070 Super |
長所 (Pros) | – 優れた1440pラスタライゼーション性能対価格比 – 16GBの大容量VRAM - AMD最適化タイトルでの高い性能 – RTX 4070 Superより安価な場合が多い – 標準的な8ピン補助電源コネクタ - DisplayPort 2.1対応 – FSR/AFMFの進化とオープン性 | – 全体的に高いラスタライゼーション性能 – 圧倒的なレイトレーシング性能 – 高品質なDLSSアップスケーリング/フレーム生成 – 優れた電力効率 – 高いクリエイティブ/AI性能 (CUDA, NVENC) - 成熟した機能セット (Reflex, Broadcast) – 安定したドライバー(一般認識) |
短所 (Cons) | – レイトレーシング性能が低い - FSRの画質がDLSSに劣る傾向(改善中) – 消費電力が高い/電力効率が低い – ドライバーの安定性に懸念を持つユーザーもいる - CUDA最適化アプリでの性能が低い - Anti-Lag 2の対応が限定的 | – RX 7800 XTより高価 – VRAMが12GB(将来的な懸念) - 16ピン補助電源コネクタが必須(要アダプタ/ATX 3.0 PSU) - DisplayPort 1.4a(AMDは2.1) – DLSS/FGがRTX専用 |
結論:どちらを選ぶべきか?
AMD Radeon RX 7800 XTとNVIDIA GeForce RTX 4070 Superは、どちらも1440pゲーミングにおいて非常に高性能なGPUですが、それぞれに明確な強みと弱みがあります。最終的にどちらを選ぶべきかは、ユーザーの予算、プレイスタイル、そしてGPUに求める機能によって異なります。
主な比較ポイントの再確認:
- ラスタライゼーション性能: 非常に拮抗しており、平均ではRTX 4070 Superが僅差でリードするものの、RX 7800 XTが価格面で優位。
- レイトレーシング性能: RTX 4070 SuperがRX 7800 XTを大幅に上回る。
- アップスケーリング/FG: RTX 4070 SuperのDLSS/FGは高品質で成熟。RX 7800 XTのFSR/AFMFは進化中でオープン性が高い。
- VRAM: RX 7800 XT (16GB) がRTX 4070 Super (12GB) より多い。
- 電力効率: RTX 4070 Superが優れている。
- クリエイティブ性能: RTX 4070 SuperがCUDA最適化アプリで有利。
- 価格 (日本市場): RX 7800 XTの方が一般的に15,000円〜20,000円以上安価。
ユーザータイプ別 おすすめガイド:
- コストパフォーマンス最優先、主にラスタライゼーションで1440pゲームをプレイしたいユーザー:
- 推奨: Radeon RX 7800 XT
- 理由: RTX 4070 Superと同等に近いラスタライゼーション性能を、より低い価格で実現できます。16GBのVRAMは将来的な安心感も提供します。レイトレーシングやDLSSの品質に強いこだわりがなければ、最もコストパフォーマンスに優れた選択肢です。
- 最高のレイトレーシング体験、高品質なアップスケーリング/フレーム生成を求めるユーザー:
- 推奨: GeForce RTX 4070 Super
- 理由: レイトレーシング性能でRX 7800 XTを圧倒し、DLSSによる高品質な画質とパフォーマンス向上が得られます。追加コストを支払う価値のある、よりリッチなグラフィック体験が可能です。
- 将来性や高画質テクスチャを重視し、VRAM容量に余裕を持たせたいユーザー:
- 推奨: Radeon RX 7800 XT
- 理由: 16GB VRAMは、将来のゲームや、現行ゲームでも最高テクスチャ設定、MOD使用などで有利になる可能性があります。12GB VRAMに潜在的な不安を感じる場合に適しています。
- ゲームだけでなく、BlenderやAI、CUDA対応のクリエイティブ作業にもGPUを活用したいユーザー:
- 推奨: GeForce RTX 4070 Super
- 理由: CUDAエコシステムと最適化されたハードウェアにより、多くの生産性アプリケーションでRX 7800 XTよりも大幅に高い性能を発揮します。
- 消費電力や発熱を抑えたい、比較的小型のPCを組みたいユーザー:
- 推奨: GeForce RTX 4070 Super
- 理由: RX 7800 XTよりも約40-50W低い消費電力は、発熱や冷却の面で有利です。ただし、16ピン電源コネクタへの対応は必要です。
最終的な判断:
Radeon RX 7800 XTは、特に日本市場における価格設定を考慮すると、1440pゲーミングにおけるコストパフォーマンスの王者と言えるでしょう。レイトレーシングを多用せず、純粋な描画性能と将来性を見据えたVRAM容量を重視するならば、非常に魅力的な選択肢です。
一方で、GeForce RTX 4070 Superは、価格は高いものの、レイトレーシング、DLSS、電力効率、クリエイティブ性能といった付加価値において明確なアドバンテージを持っています。これらの機能に価値を見出すユーザーにとっては、投資に見合うだけの優れた体験を提供してくれるでしょう。
どちらのGPUもそれぞれの魅力を持っています。ご自身の予算、プレイスタイル、そしてGPUに求める優先順位を明確にし、本記事の情報を参考に、最適な一枚を選んでください。
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